母のマニキュア


母が二週間ほど前、生活介護付きの老人ホームに入居した。
色々考えた末のことだが、さみしくないかな、
心細くないかななどと、頭の中で母のことが巡っていた。
母は、あるケガで、一年ほど入院していた。
体重も、20キロも痩せて35キロになり、かなり弱っていた。


先日、その施設を訪ねた。
看護師やヘルパーさんも充実しており、
ケアマネージャーや機能訓練指導員もいる。
明るく清潔なマンションのような施設で、一安心した。
午後二時にはイベントがあり、
皆で、歌を歌ったりするらしい。
「今日は西郷輝彦の、星のフラメンコを手を叩いて歌ったの」
氷川きよしでも来るといいね」
と私が冗談を言うと、
「そんな有名人来るわけないじゃない」
と、母は笑っていた。
「三時のおやつもあるのよ」
と話していた。
母と同じフロアーの女性とご挨拶した。
最近、娘さんと歌舞伎座に観劇に出かけたそうだ。
とても身奇麗にされてる方で、70過ぎには見えなかった。


ふと、母の手を見ると、ピインクのマニキュアを付けていた。
桜色に近い、品のある色だった。
「マニキュア付けてるのか」
と聞くと、
「200円で付けてくれるのよ」
母は嬉しそうに話していた。
私は、母の心に何か華やいだものが芽生えているようで、嬉しくなった。
女性であることを忘れず、きれいでいようとする母の姿。
母にも小さな春が来たのだろう・・・・