[エッセイ」私の耳は貝の殻


「私の耳は貝の殻
  海の響を懐かしむ」


私がこのコクトーの詩と出会ったのは高校生の頃。
特に「懐かしむ」が詩に余韻を残している。
コクトー堀口大學、二人の詩人の、
ミューズとミューズが響き合い、
抒情溢れる共作を誕生させたのだろう。


深夜、ふと眠れなくなってテレビを付けると、
小林薫風吹ジュンの映画が放映されていた。
なんだか、地味な映画だなと思っていたが、
次第に画面に惹きこまれていった。


30年ぶりの同窓会で再会した、
中年の男女の切ないロマンスを、
小林薫風吹ジュンが好演している。


他に益岡徹、吉村実子が出演。
監督は、中原俊
彼の作品では「櫻の園」が印象深い。


どこにでもある身近な出来事なのだが、
よくその内容をふくらませ、
丁寧にこの「コキーユ 貝殻」という映画は描いている。


風吹ジュン演じる直子は、
離婚して、郷里で中学生の娘と暮らし、
地方都市の街道沿いに「コキーユ」というスナックを開いている。
「コキーユ」とは、「貝」の意味のフランス語。
これは、30年間思い続けている、
同級生の浦山の思い出の品から命名した。
それは30年前、中学時代送られた、
コクトーの詩と貝。


「私の耳は貝の殻
  海の響きを懐かしむ」


から取った名前だった。


私の中で、何か甘酸っぱいものが、
この映画を観ていると甦ってきていた。