遠花火


神楽坂浮子の「十九の春」を聴いていた。
彼女は、神楽坂はん子の弟子筋の芸者歌手。
鈴を転がしたような浮子の声が、
純情な乙女を想像させる。


   好いちゃいけない
   好かれない
   ただあきらめる
   恋もある


「十九の春」より


純情可憐なお乙女の芸者。
恋した人に告白できず、
胸に秘めた恋心。


「十九の春」を聴きながら、
ある芸者さんのことを思い出していた。
もう何年前になるのだろう・・・
それは接待のとき、
お客さんが遅れてきたので、
彼女と二人きりになった。
実は彼女とは以前一度だけ、
偶然席を共にしたことがあった。
そのときの印象が強かったので、指名したのだ。


「覚えている」
と尋ねると、
「覚えています、お得意さんと難しい話をされていましたね」
と答えてくれた。
「君によく似合う素敵な着物だね」
と話しかけると、
「今日の着物は芸者になったとき初めて頂いた着物なんです」
とまっすぐ私の目を見つめ答えていた。


後れ毛を直す仕草に色気があった。
遠花火のように思い出が蘇る。


彼女は今、二度目の幸せを掴んで家庭に入っている。