おっぺし


昭和40年代前半まで、
千葉県の外房には、「おっぺし」という女性がいた。
当時の外房九十九里浜では、港がないところが多く、
砂浜で遠浅の海岸では、漁船を出港させるのは容易でなかったようだ。
そこで、木造の漁船を海岸から海に出す、
或いは海から浜に引き上げる際、
おっぺしの力を必要とした。


ちなみに「おっぺす」とは「押す」の千葉県の外房を中心とした方言。
おっぺし達は、船を押す、無くてはならぬ労働力だった。
80代の元オッぺシの女性のインタビューを見ていたが、
なんだかすごくバイタリティーを感じた。
若かりし頃の、おっぺしの当時の写真を見たが、
躍動的で、綺麗だなと思った。
人工的なカリスマモデルより、私には魅力的に感じた。


一心不乱に漁船を引き上げるおっぺし。
まだ日の上がらぬ真冬の海で彼女たちは働く。
焚火の団を取るおっぺしの背後、
九十九里浜の海から朝日が昇る。
そこには、一種太古の風景のような荘厳さがある。


28歳で夭折した天才画家の青木繁の「海の幸」や、
三島由紀夫の「潮騒」のようだなと思ったが、
そんな事を話したら、
「あんた暇な人だっぺ」
と笑われそうだ。
ふとそんなことが頭を過った。