野良犬のシロ


誰かがこんな話をした。
「野良犬は保健所のおじさんに連れられて殺されちゃうんだって」
「エ〜ホント」
子どもたちはビックリしながら、
どうしたらこの白い子犬、
野良犬シロを守れるのか話し合った。


ここは、東京の町工場が肩寄せあう川沿いの下町。
時は夏。
男の子たちはランニング一枚と半ズボンで走り回っていた。
あるとき、子どもが一匹の白い子犬を原っぱで見つけた。
どうやら母親がいない子犬のようだった。
子どもたちの家は、犬を飼う庭もないしお金の余裕もない。
そこで近所の仲良しの子どもで話し合い、
原っぱに、木や廃材で急場の犬小屋を作った。
犬子屋は、工作が得意な板金屋のけんちゃんが担当した。
エサはみんなの給食のパンを。
保健所のおじさんやおとなに見つからないないように、
見まわりはみんなで交代で。
まだまだ世の中は狂犬病の恐怖が巷(ちまた)に流布(るふ)され、
野良犬は駆除すべき存在だった。


そんなある日、
みんなで原っぱで野球をしていると、
『キー』 『ドン』
ブレーキの音と同時に何かがぶつかる音が・・・


道路には白い犬が。
そうあの子犬のシロが倒れていた。
「ク〜ン」
とかなしげなシロの声。
半分開いたシロの目。
何か訴えかけているようなうるんだ瞳・・・・


「救急車・救急車」
と一人が言った。
「救急車は人しか運ばないよ」
と誰かが妙に冷静に話した。
シロの目はしだいに閉じてゆき、
とうとう完全に閉じてしまった。


これは私が小学生の頃の子犬の思い出。
断片的な記憶を繋げてみました。
あのシロの切ない目を今も忘れられません。