相合傘(あいあいがさ)


下宿への帰り道、いきなり夕立となった。
私は畑が点在する道を歩いていた。
雨はますます激しくなって泥水が畑から流れてくる。
「ああ傘を持ってきて助かった」
そう思った。


そんなことを思いながら歩いていると、
前方に籠を背負った農家のおばさんらしき人が歩いていた。
おばさんに傘を差出し、
「傘に入ってください」
と声をかけた。
「ありがとう」
とおばさんは素直に返事をされてた。
おばさんと思ったが、
お顔を拝見すると年配で可愛いお婆さんといった感じの方だった。
「学生さん、家はどちらの方角だね」
と聞かれて、
下宿の場所を言うと、
「同じ方角だね」
と言うことで、
お婆さんをご自宅まで送ることにした。
しばらくお婆さんと相合傘となった。
相合傘でどんなお話したかは今となっては覚えてないけど、
きちんと農家らしき家の玄関まで送った。
お婆さんから、
「荷物になるだろうけど野菜を持っていきなよ」
と取れたての野菜をお礼に頂いた。


私は野菜を頂いて下宿まで持って帰り、
「夕飯のまかないにでも使ってください」
と野菜を下宿のおばさんに渡した。
下宿のおばさんが、
「どうしただね、その野菜?」
と聞かれたので、
通りがかりに雨に濡れていたお婆さんを送ったらお礼にもらったと話した。
「あんたやさしいね」
とおばさんにほめられ、
ちょっと面映(おもは)ゆい気持ちになったのを覚えている。
30年前の相合傘の思い出だ。