「速水御舟の炎舞」

二十代半ばの頃、日本画の、速水御舟(はやみ ぎょしゅう)の、
「炎舞」に取り憑くかれた。
「炎舞」は、日本橋茅場町山種美術館に展示されており、
私は、「炎舞」見たさに通いつめた。
「炎舞」に惚れたのだ。
漆黒の闇に、燃ゆる紅連の炎。
闇に朱が絶妙に溶け込んで、より炎を幻想的にしている。
炎の揺るるを、蛾が輪舞する。
蛾達は、炎舞の果てに死の悦楽に、酔っているのか。
生と死の狭間で、狂おしいまでに、歓喜に舞う蛾の姿に、
死への憧れさえ感じる。
さらに、感情に流されることなく、写生に裏打ちされた、御舟の確かな、
筆致が、よりリアルに蛾と焔を描いている。
「写生」を突き詰めれば、「幻想」となり、
「幻想」を突き詰めれば、「写生」となる。
御舟の心象と景物が、虚となり実となる。
美の頂を、目指した御舟、彼は、炎の頂に何を見たのだろうか。