焚き火の煙り


東京駅から中央線に乗り、立川を過ぎ多摩川を渡ると日野という駅がある。
今は随分開けたけど、私が小学生の頃はまだ木造の駅だった。
この日野に親戚の家があり、遊びに行った思い出がある。
多摩丘陵の端にある日野は、東京の郊外で緑の緩やかな丘陵になっていた。
当時丘陵を縫うように流れる多摩川も、比較的澄んだ流れだった。
下流の六郷、羽田地区は工場排水で60年代〜70年代は濁った色をしていた。


私は、この日野で春先土筆(つくし)取りをした。
私の採った土筆を甘辛く煮て、親戚の叔母が調理してくれた。
多摩動物公園や高尾山も近く、
従兄弟達と遊びに出かけた。
母や叔母達の手作りのお弁当を食べた。


そんな多摩の日野の思い出の中で、
際立って記憶に残っている風景がある。
ある冬の日に日野を訪れたときの事。
農家の庭から立ち上る焚き火の煙りが、目に焼きついた。
冬の澄んだ青空に立ち上る一筋の煙り。
その煙りを見ていると心が落ち着いた。
落ち葉焚きにほのぼのした。
渡哲也の趣味は焚き火だそうだ。
なんとなく焚き火が彼を癒すのかもしれない。
原田知世主演の、角川映画時をかける少女」の中で、
上原謙演じる老夫婦が、焚き火をしている場面が、ペーソス溢れていた。
日野で感じた焚き火の哀愁。
美しかりし遠きノスタルジア