女優 加藤治子


加藤治子は、不思議な女優だ。
齢(よわい)80歳を過ぎても、女を感じさせる女優。
森光子とは違った意味で、永遠の女優。


私は、小学生のとき見た、「泣かないでかあちゃん」というドラマで、
加藤治子が母親役を演じていた。
戦争中、夫(大坂志郎)が、たしかフィリピンで現地の女性と恋に落ち、
娘がいて、その娘が日本にやってくる。
確か、カタリーナという娘だった。
その娘を、加藤治子が、自分の二人の子供と共に育てる。
そんなストーリーだった。
私は、結構夢中で視ていた記憶がある。
特に、白い割烹着の似合う加藤治子に好意を持っていた。


向田邦子シリーズで、実に彼女は様々な女性を演じている。
NHKドラマの「阿修羅のごとく」などでは、
これこそ女という女性を演じている。
女性の内奥にある情念を、見事に演じている。
阿修羅のごとく」の頃、40代の女性を演じていたが、
既に、彼女は50代半ばだったのではないか。
そうした、年齢を感じさせない女優としては、杉村春子もそうだった。
同じ新劇の文学座に在籍していだが、加藤治子杉村春子と袂をわかつ。


最近では、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」や「ハウルの動く城」で、
声優としても活躍している。
ちなみに「魔女の宅急便」のコピーは、糸井重里によるもの。
『おちこんだりするけれど、私はげんきです』


加藤治子の演技で、姫鏡台に向かって紅を引くシーンがあり、
母に女を見るようで、妙にドキドキしたものだ。
彼女は、年齢を重ねながら色香がある、稀有な女優ではないか。