妖しくさりげなく


この人は「さりげなく」という言葉が好きなのだなと思った。
彼女の自著「蒼い時」の「色」の中でも、


『さりげなく上手に黒を着こなせる女でいたいと思う。』


と書かれていた。
阿木耀子言の葉を、山口百恵は自らの言の葉の血肉としている。
阿木耀子も「さりげなく」という言葉を効果的に使っている。
例えば、「さよならの向こう側」の詞で、

   

   last song for you last song for you

            いつものようにさり気なく


と「さりげなく」を引退してゆく、
百恵の姿として、象徴的に使っている。


横須賀恵というペンネームで山口百恵は作詞をした。
阿木耀子の影響が濃い詞が多い。
女である自分を意識し、
自らの女の属性を、極北まで到達させようとする。
そんな横須賀恵こと、山口百恵が作詞した「一恵」からの抜粋。


     現(うつつ)にもどす罪の深さを
     知ってか知らずか貴方への
     愛を両手に呟いた
     わたしは女


熾火のような心象風景がある。
「さりげなく」の裏に燃ゆる情念を忍ばせ、
妖しく美しい詩魂が全開する。