全日本歌謡選手権


「流しですけど歌を唄わせてくれませんか」
もう深夜0時近くで、そろそろ店じまいの頃、
ギター片手の流しの青年がスナックを訪ねてきた。
「すみません、お店12時までなんです」
とママがお断りすると、青年はドアを閉めて姿を消した。


今どき珍しい流しを見て、
何故か子どもの頃見た「全日本歌謡選手権」を思い出した。
流し出身の五木ひろしなどがデビュー(再デビュー)した、
オーディション番組だ。
スター誕生がアイドルへの登竜門だとすれば、
この「全日本歌謡選手権」はヒット曲に恵まれないプロの歌手の、
再起を賭けた登竜門のような存在だった。


審査員は淡谷のり子船村徹鈴木淳竹中労・平尾昌晃・
山口洋子だった。
淡谷のり子など厳しい審査員や、
革命家の竹中労や当時銀座のママだった山口洋子など、
異色の審査委員もいた。
後に竹中労は「平成名物TVイカ天」の審査員もした。


審査員の山口洋子五木ひろしの歌を、
きらきらした瞳で批評していた。
彼女が真赤なスーツ?を着ていたのを覚えている。
なんとなく彼女から恋する女性のオーラが放たれていた・・・・


他に天童よしみ・中条きよし・真木ひでと山本譲二などが、
この「全日本歌謡選手権」のグランドチャンピオンをきっかけに、
再デビューしている。


私は、五木ひろし八代亜紀のグランドチャンピオンになった放送を
覚えている。
流しの彼も歌手デビューを胸に秘めているのかもしれない。
けれど今はこうしたオーディション番組はなくなってしまった。
名もない星たちの、希望の星がほしい・・・・・