無機質な情熱


横浜美術館で『マックス・エルンスト フィギア×スケープ』を鑑賞。
横浜美術館は昨年末に「松井冬子展」に足を運んで以来、
今年初めてとなる。
今回の展示会で新鮮に感じたのは、
エルンストの作品は「身近」な存在として伝わってきたことだ。
何度かエルンストの作品を鑑賞したが、
読み解くように鑑賞していたので、
いささか疲れてしまった。
それはあたかも数式を解くかのようだった。


エルンストのコラージュ「慈善週間または七大元素」
取り分け「無題」が印象に残った。
ライオンの顔をもったフィギアが、
布を体に巻きつけた夫人を釜に入れようとしている。
夫人は目を見開き、口を開けて叫んでいるようにも見える。
釜の傍らには花を持った若き裸体の女性が無表情で存在している。
意味ありげなこの作品を何故「無題」にしたのだろうか?
このコラージュは、
グロテスク一歩手前で、何となく無機質なのだ。
リアリズムを肩すかしするような気分にさせる作品だ。


コラージュ作品「カルメン修道会へ入ろうとしたある少女の夢」
第12番のための挿画原画も気になる作品だった。
男達の追随の的になるカルメンの顔だけが白くなっている。
まるで仮面のように・・・
男達はカルメンの取り合いで彼女の前で殴り合いの喧嘩をしている。
そんな男達を見ることもなく、
どこ吹く風とカルメンはすました顔で横を向いている。


他の作品では、
「美しき女庭師の帰還」「偉大なる無知な人」「自由の称賛」
からエネルギーを貰った。


彼の作品からは無機質な情熱を感じる。
生身の人格をいったん捨象することで、
無機質な情熱、あるいは演算の記号化をしているのかもしれない。
やや飛躍して表現すれば、
核分裂も数式で表されるように捨象(しゃしょう)しているのか・・・