BMWのオンナ


真っ赤なBMWが九鬼に横づけした。
「乗っていきませんか」
女が声をかける。
鈴を転がすような声・・・
女が車の窓を開けて顔を出す。
女はイタチ科のテンのような顔をしている。
色白の小顔。
小さな鼻がツンと立っている。
可愛いい獣のようだ。


女とはとあるバーで知り合った。
「会社に行かれるのなら、お近くですからお送りしますよ」
コケテッシュな彼女に誘われると魔法にかけられたようになる。
バーで名刺を渡したとき、
「わたしのマンション九鬼さんの会社のお近くなんですね」
そんな話をしたのを九鬼は思い出した。
此処から九鬼の会社まで歩いて20分余り、
歩くには少しばかり遠い距離だ。
九鬼は車に同乗することにした。
九鬼は車の助手席に座った。
『キキ』と音を立て発進する赤いBMW
女はやや荒い運転だった。
「デートの約束お忘れになりました・・」
と女は軽く唇を突出し、
甘えるように話しかけた。
「そんな約束したっけ」
と九鬼。
「まあ、約束忘れたんですね」
「このままどこか遠くにお連れしちゃおうかな」
そう言って女は少しイタズラな目をした。


俺はこの女に捕まった獲物か・・・
いっそ脅かしで、
このままホテルにでも直行するとでも言おうか・・・
そんなことも九鬼は考えたが、
もしかホントにハンドルをホテルに切ったら、
シャレにならないなと考えた。


「デートの約束は果たすから、
ここで降ろしてもらえないか」
そう九鬼が頼むと、
「約束ですよ」
女は笑みを浮かべ、
九鬼を無事降ろしてくれた。
BMWのオンナには気をつけなきゃ」
そんな言葉が九鬼の脳裏を走った。