煙草の表情


喫煙者が、
吸わない方に、
「煙草を吸ってよろしいですか」
と断るのは最低限のエチケットだが、
「どうぞ」
と返事を受けずに吸い出す喫煙者も案外いる。
喫煙者にとっての「吸っていいですか・・」は、
「これから吸いますよ」の合図のこともある。
この喫煙者と非喫煙者の意識の違いでトラブルになることもある。


また喫煙については、飲食関係のお店も配慮してほしい。
以前、寿司屋のカウンターで隣のお客に煙草を吸われ、
鮨がまずくなった。
寿司屋のカウンターで煙草を吸うとは無粋な奴だなと思い、
思わず「すみません・・」と声をかけようかと思ったが、
横を見ると、灰皿が置いてあったので止めた。
お店がカウンターでの喫煙を認めている以上、
そのルールに従うのがお客だと考えたからだ。
勿論、職人気質の微塵も感じない、
件(くだん)の寿司屋には二度と行ってないが・・・


火が点けられたまま灰皿に置き去りにされた煙草や、
揉みくちゃの煙草はどこか哀れだ。
光沢のある黒い灰皿に、
口紅の付いた折れた煙草が置かれていた。
その煙草が妙に生々しく見えたのを覚えている。


煙草は「カサブランカ」のボギーのようにダンディな仕草もあるし、
吉原の遊女の長い煙管を吹かす艶ある仕草もある。
吉原の遊女は自らの煙管に火を点けて、
「吸い付け煙草」として道行く客に差し出したという。
この「吸い付け煙草」の煙管の雨を受けたのが、粋な花江戸助六だった。
「煙管の雨が降〜るようだ」
との助六の口上がいい。
こうした小道具としての煙草もある。


助六由縁江戸桜」の花魁(おいらん)揚巻の登場を俳句に


   揚巻の
    酔いを醒ませと
        袖の梅


「袖の梅」は酔い覚ましのくすり。
助六は花魁揚巻の情夫であった。


煙草にもそれぞれ表情があるような気がする。
それは煙草を吸う人の投影でもある。
煙草を愛しむように扱う方、
「愛飲」される方の表情は穏やかだ。
個人的には煙草は嗜好品だから個人の責任で吸うのはいいけど、
TPOをわきまえた「愛煙家」が増えたらなと思う次第です。