異人たちとの夏


「いい歳して忙しがってんじゃないよ」
「つまんない遠慮なんてするなよ」
そんな鶴太郎の東京の下町言葉がいい。
大林宣彦監督の「異人たちとの夏」を見る。
壮年のシナリオライター原田英雄(風間杜夫)は、
12歳の時、交通事故で亡くなった両親と偶然、浅草で出会う。
不思議な両親とのひと夏の交流が始まる。
英雄は懐かしさから両親の許に通うようになる。


「ほら、こぼしたこぼした、言ってる側からこぼして・・」
という英雄の母(秋吉久美子)の言葉が懐かしかった。
「言ってる側から・・」その台詞って、
こどもの頃、私も祖母に言われたな・・・


一方で、原田は妖艶な女性、桂(名取裕子)と愛人関係になる。
何故か桂との睦事は背後から・・
桂は決して原田に自らの胸を見せない。
実は桂も異人(幽霊)ですでに自殺した女だった。
目の周りは隈ができ頬は痩せて、
次第に彼は衰えてゆく。
怨霊の桂に精気を吸い取られていた原田は、
桂を愛した分だけ死に近づいていたのだ。


すき焼き屋(浅草今半の別館)での両親との別れの宴のシーンで泣けた。
「あばよ・・」
おでこをちょいと扇子で叩いて、
父(片岡鶴太郎)は別れを息子に告げ消えてゆく。
「ありがとうございました」
英雄は最後の別れの言葉を父に告げる。