お金の魔力


一本の電話が沖縄から掛かってきた。
「今、沖縄のリゾート開発に来てるんだけど、
 ちょっと滞在費が嵩んじゃって、後で会社から送金するから
 30万ほど振り込んでくれないかな」
と得意先の営業係長から私宛に電話があった。
「そうですか、専務と相談してご返事します」
と私は応えたが、既にその係長が業者に架空の電話を掛けて、
お金を振り込ませていることが分かっていたので、
送金はしなかった。


その係長は新宿のホステスに入れ込んで、
ホステスの借金の保証人になり、彼女が借金を踏み倒して逃げて、
彼が借金を支払う羽目になった。
夜のネオン街にはよくある話しといえばよくある話かもしれないが、
保証人とは怖いものだと思った。
その後、彼は離婚され、子どもとも離れ離れになったと噂で聞いた。
彼は大手不動産会社のエリート社員で、いつも自信にあふれていた。
会社からも将来を嘱望されていた。
当時彼は、三十代半ばぐらいだったと思う。


また、入れ込んだホステスにお金を貸したお客が、
結婚を申し込んだが断られ、
取り立てをするんだと息巻いていた、
そんな話を風の噂で聞いたこともあった。
よくクラブのママさんが、
良いお客は見返りを求めないお客だ、
そんな話を聞くが、大方のお客はそんなスマートな飲み方はしない。
見返りを求めるのが常だ。


マルクスの経済学でいえば、
貨幣には交換価値がある。
お金と愛情の交換価値は、虚と実が絡み合いながら、
今日も夜のネオン街で妖しい光を放つ。