蟬しぐれに思う・・・
藤沢周平原作の「蟬しぐれ」を初めて知ったのは、
市川染五郎丈御贔屓の御婦人からだった。
御婦人は日本舞踊の師範でクラブのチーママもされていた。
映画の「蟬しぐれ」を鑑賞されて、
20年後の文四郎とお福さまとの再会のシーンや、
ふく役の木村佳乃の素晴らし演技について話されていた。
涼やかな切れ長の瞳が、いつになく活き活きとしていたのを覚えている。
「ふくはそばまで来ると、車上の遺体に手を合わせ、
それから歩き出した文四郎によりそって梶棒をつかんだ。
無言のままの眼から涙がこぼれるのをそのままに、
ふくは一心な力をこめて梶棒を引いていた。」
「蟬しぐれ」 藤沢周平著より
この「蟬しぐれ」のシーンがわたしは好きだ。
どうしようもなく涙してしまう。
彼(か)の御婦人もふくのように弱音を他人に吐くことなく、
我慢強く一途であった。