花失せぬ舞
「物数を極めて、工夫を盡して後、花の失せぬところを知るべし」風姿家伝より
先日、ある日本舞踊を観覧する機会があった。
何遍も何遍もお稽古を積み、
工夫を施したであろう舞踊家の踊りに、
世阿弥の「花」に通ずる芸を感じた。
模倣することは信頼すること。
稽古の繰り返しのなかで、
師弟の信頼関係も、生まれるのではないか。
歌舞伎の世襲制度も、
親子の情だけでなく、
子が親の芸に心服せねば、
強い師弟の絆を結ぶことはできない。
過日、NHKのアーカイブスで市川染五郎(現 松本幸四郎)の
幸四郎襲名のドュメントを放映していた。
父親であり師匠であるの白鸚との激しい稽古に、
和して同じない師弟をみる思いがした。
幸四郎襲名の一年後、白鸚は他界している。
渾身の父子相伝の姿がある。
そうした師弟の緊張関係にこそ芸が磨かれるのではないか。
日本の伝統芸能の真髄は、
まさに模倣と言ふ伝承にある。
模倣とは信頼であり、
芸とは師弟の信頼に裏打ちされた、
模倣から始まるものかもしれない。
舞踊家は、物数を極めて工夫を盡す。
花失せぬ、世阿弥の『花」が舞う。
*松本幸四郎 昭和17年8月19日生まれ
八代目松本幸四郎(初代白鸚)の長男
21年5月東京劇場「助六」の外郎売(ういろううり)
の倅で、松本金太郎を名のり初舞台。
24年9月歌舞伎座「逆櫓」の遠見の樋口で
六代目市川染五郎を襲名。56年10月、11月
歌舞伎座「勧進帳」の弁慶ほかで九代目
松本幸四郎を襲名
長男は七代目市川染五郎(本名藤間昭薫)
次女は女優の松たか子(本名藤間隆子)
*相伝(そうでん)
代々受け伝えること
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