ピアノの思い出

あれは、小学2年の頃だった。
私は、当時ピアノを習っていた。
私が育ったのは、東京の大田区羽田である。
大田区は、高級住宅地の田園調布から私が生まれ育った羽田のような、
工場地帯もある、ブルジョワからプロレタリアまでの地域がある。
なんとなく「男はつらいよ」のタコ社長や博がいそうな、
油の匂いのする町だった。
そうしたことから、羽田は中小の工場が林立する職工の町であり、
少し前まで、猟師町であったことも、相俟って、男っぽく、激しい気風があった。
そんな町で、ピアノを習っていた男子の小学生は、ごく少数派であった。
実は、私はソロバンも習っていたが、これは男子女子とも半々であった。
町工場が多く、自営業の息子、娘が習いにいってたからだろう。
ピアノのレッスンが終わり、帰る途中、近所の公園で、
悪がき二人に呼び止められた。
「おまえ、男のくせにピアノなんか習って女みたいだな。」
と、からかわれた。
いつも持ち歩いてたピアノのカバンに、♪のマークがあり、
一目で、ピアノ教室に通っていると、わかってしまったのだ。
私は、ムッとして無言で通りすぎた。
家に帰っても、女みたいだなという、ガキ大将の言葉が耳から離れずにいた。
とうとう、親にピアノをやめると申し出た。
親からは続けるように、説得されたが、私の意志は固く、
ピアノ教室をやめてしまった。
今考えると、少々惜しい気がする。
スタニスラフ・ブーニンとまでは、いかないけども、
ピアノを弾く男も、お洒落かもしれない。
バイエルも終了し、ソナチネまでレッスンも進んでおり、
ピアノもこれからのところであった。
それにしても、男兄弟の中で何故私は、ピアノを習わされたのだろう。
いまだに、疑問として残っている。


*「男はつらいよ
渥美清主演、山田洋次監督。
36年で全48作品を上映。
ギネスブックにも載る。
渥美清演じるフーテンの寅さんが、恋と失恋を繰り返し、
様々な事件を起こす、人情喜劇。
寅さんの故郷は東京葛飾柴又。寅さんは次男。



*当時、柔道一直線近藤正臣扮する美少年が、
つま先でピアノの鍵盤を叩いて、演奏していたのが印象的だった。


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