父からの手紙、母からの手紙

村上龍は、時代のオピニオンリーダーとして、
様々なメッセージを、発信している。
特に若者に対して、積極的に発言している。
そんな、村上龍が20代の頃の話である。
私が、この村上龍のエピソードで、興味深かったのは、彼の父親が、
東京に出てきた息子に、毎日手紙、はがきを書いて届け、
けして、息子である村上龍に、返事をもとめ無かったという話である。
ただひたすら、見返りを求めず書き続ける父親。
母親にない、父親の一途さがある。
当の息子である村上龍は、一通も返事を書かなかったそうだ。
それでも、息子である彼にとって、父親の手紙は、
有形無形のメッセージに、なったのだろう。
手紙といえば、野口英世の母シカの手紙が、世に知られてる。
野口英世の母、シカの、息子への想いを綴った、かな文字の手紙。
その手紙は、文法には、適ってない、けして上手な字とはいえない手紙だ。
しかし、「はやくきてくだされ」と何度も繰り返し書かれた文字は、
わたしたちを、圧倒する力がある。
どんな、インテリでも、冷静な息子でも、
この魂の手紙に、胸が締め付けられるのではないか。
早く帰って欲しいと、哀願する母の姿に、母親の面影を重ねてしまうに違いない。
私は、村上龍の父親に、男親の、全面的に、
我が子を信じる心の大きさを感じる。
野口英世の母親には、我が子と一身同体である母の、迸る息子への愛を見る。
村上龍は、どこか、彼の父親と同じように、若者に接しているように思うのは、
私だけだろうか。
村上龍は、特に職業について、積極的に発言している。
夢中になること、それが職業には大事だと。
ニートが社会問題化している。
村上龍自身が、若い頃はニートだったことからも、
彼の著作、「13歳のハローワーク」は、体験に裏打ちされている。
矢沢永吉も、自らのビートルズ体験を語り、
ビートルズに、夢中になり、心酔して、ロックを始めた。
何かを、始めるとは、夢中になる物を見つけることだ、
そんなメッセージ発信している。
そこには、説教くさい意見ではなく、むしろそれぞれ能力にあった、
職業を見つけることの大切さを、声高でなく、静かに語る姿勢がある。
どこか、子供を見守る父親の鷹揚さがある。
村上龍からの手紙を、若者はどう受けとめるのだろうか。


村上龍(むらかみりゅう)
1952年生まれ。長崎県佐世保出身。
小説家、映画監督。両親は高校教師。
1976年「限りなく透明に近いブルー」で第75回芥川賞受賞。
他に著書として、
「69sixty nine」
「すべての男は消耗品である」
「あの金で何が買えたか バブルファンタジー

*明治生まれの祖母が、よく私に言い聞かした言葉は、
昔の武士は、十五歳で元服した。
十五歳は、立派な大人だということだった。
13歳のハローワーク」読むことで、職業を考えることも、
けして、早過ぎるいうことはない。