三人の女優

 
 涼風真世の、
 「名奉行大岡越前」の密偵おりん役が板についてきた。
 涼風演じるおりんは、鬼平犯科帳のおまさと同じく、
 過去のある女だ。
 涼風真世は、宝塚歌劇団出身ながら、華やかな演技に留まらず、
 抑えた演技も光る、なかなかの、名脇役だ。
 涼風真世の演技に、最初に注目したのは、大河ドラマ「秀吉」だった。
 天下の大泥棒、石川五衛門(赤井秀和)の恋人、たきの役であった。
 最後に、惚れた五衛門とともに、釜茹での刑に処せられるシーンは、
 鮮烈だった。
 熱湯の中、苦しみつつも恋しい男と添い遂げる、女の恍惚とした表情を
 涼風真世が好演していた。
 NHKのアニメ「雪の女王」では、雪の女王役で声優としても活躍。
 宝塚時代、真矢みき安寿ミラ一路真輝などキラ星のごとく輝く中、
 涼風真世は、メルヘンチックな役もこなす、
 妖精のような、異色のトップスターだった。


 若村麻由美名脇役として、頭角を現している。
 「けものみち」でエキセントリックな役柄を見事に、演じている。
 エキセントリックの真骨頂、政界のフィクサー扮する平幹二郎に、
 引けを取らない秀逸の演技だ。
 山本周五郎の「柳橋慕情」で、一途な女を演じていた。
 NHKの朝の連続テレビ小説はっさい先生」では、
 さわやかな先生の印象があったが、無名塾出身ということもあり、
 演技派の女優の素地は、もともとあったのかもしれない。
 反町隆史主演の「蒼き狼〜地果て海尽きるまで」(澤井信一郎監督)の
 ジンギス・ハーンの母親、ホエル役が決まった若村麻由美の演技が楽しみだ。
 NHKの海外人気ドラマ、「アリー・myラブ」のアリーの吹き替えも、
 彼女の声によくマッチしていた。
 若村麻由美は幻の童謡詩人、金子みすゞの朗読もするなど、
 多彩な才能を発揮している。
 私の若村麻由美にたいする希望は、女優らしい女優の少ない昨今、
 いつまでも、女優らしい女優でいてほしいということだ。


 女優らしい女優として、寺島しのぶも注目すべき役者のひとりだ。
 2006年冬公開予定の、渡辺淳一原作、
 「愛の流刑地」で豊川悦司と共演する。
 中年作家と人妻との不倫を描いた物語だが、演技派の二人のラブシーンが、
 今から注目を浴びている。
 映画の指揮を執る鶴橋監督は、二人を評して、
 「(豊川)は指が長くて実にエロテック」
 「(寺島)は肌が白く、一輪挿のユリのよう」
 と語っている。
 映画「失楽園」の黒木瞳にも勝るとも劣らぬ妖艶な演技を、
 寺島しのぶが演じることを期待したい。
 一方、さわやか系の番組でも彼女は活躍している。
 NHKの朝の連続テレビ小説純情きらり」も見逃せないドラマだ。
 昭和10年代の日本の様子がよく描かれている。
 どこか、向田邦子のドラマの匂いがしてくる。
 特に、ヒロインの桜子の宮崎あおいと、向田ドラマの田畑智子
 ダブルことがある。
 寺島しのぶの長女、笛子役は適役だ。
 勝気でプライドが高く、弟妹想いの不器用な女教師を好演している。
 池波正太郎原作の「剣客商売」の男装の女剣士、三冬役も凛々しい。
 寺島しのぶは、演技の幅のひろい女優だ。


 宝塚歌劇団涼風真世、劇団出身の若村麻由美梨園寺島しのぶ
 三人の燻し銀女優の、活躍を期待したい。


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