みかん色の思い出

20歳の頃、ビルの清掃のアルバイトをしたことがある。
人気のない事務室を、ポリッシャー(床磨き機)で洗浄する。
洗剤の匂いが、鼻をくすぐる。
最後に、ワックスを塗り乾かすと終わりだ。
清掃作業は、4〜5人のチームで作業をする。
「いっぷくしよう。」
と作業責任者が指示をした。
みんなそれぞれ、お茶をのんだり、なぜかバナナを食べてる人もいた。
そんな時、みんなから、「金ちゃん」と呼ばれている、60前後の
男の作業員が、「みかん食べろよ」と私に、みかんをくれた。
金ちゃんは、笑点林家木久蔵似の、人の良さそうな風貌だった。
私は、嬉しかったが、一つしかないみかんをもらうのは忍びなく、
「半分にして食べましょう」と提案した。
金ちゃんは、金歯を光らせ、ニッと笑った。
金ちゃんと私は、一つのみかんを分けて食べた。
金ちゃんの自慢は、一人娘が信用金庫に勤めていることだった。
よく、「鳶が鷹を生んだ」と笑って話していた。
金ちゃんとのみかん色の思い出は、20年以上経った今も、
懐かしく甦る。
さりげない心のふれあいとは、
何年たっても胸に刻まれているものだ。
みなさんも、そんな思い出があるのではないでしょうか。