達彦の苦悩桜子の試練

達彦(福士誠治)は、桜子(宮崎あおい)のジャズピアノに、
拒否反応を起こす。
戦地で、悲惨な体験をした達彦。
生真面目で、即物的でなく、むしろ観念的な達彦は、
考え込んでしまい、閉ざされた心の出口が見つからない。
「なんで、あんなに明るい曲が弾けるんだ。」
達彦は、桜子を問い詰める。
「生きているからだよ。」
「笑って、幸せになりたいからだよ。」
「私は達彦さんと一緒に、もう一度幸せになりたい。」
達彦は自らの気持ちを吐露する。
「俺は幸せになる資格なんかないんだよ。」
桜子も裸の気持ちを達彦にぶつける。
「達彦さんになにかして欲しい訳じゃない。」
「前みたいに一緒に笑って、欲しいだけなのに。」
桜子は、達彦のトラウマを氷解させることができるのか。


私の中で、「純情きらり」達彦の戦地体験と、五木寛之の小説、
「海を見ていたジョニー」のジョニーの体験と重なった。
ジョニーは、ジャズの黒人トランペット奏者。
優しく、ジャズをこよなく愛する男だ。
そんなジョニーに友情にも似た感情をもつ、
ジュンという、これもトランペット奏者を目指す少年の目から
物語は展開する。
ジョニーはベトナム戦争から帰還すると、性格が一遍する。
暗い目で海を見つめるジョニー。
演奏が出来なくなったジョニー。
深い戦争後遺症に悩む。
人殺しの自分は、人を感動させる音楽は出来ないと、
ジョニーは少年に語る。
少年は、ジョニーに今一度トランペットを吹いてくれと頼む。
ジョニーは、少年の頼みを聞き演奏する。
ジョニーは尋ねる。
「俺の演奏はどうだった。」
少年はジョニーの演奏に感動した気持ちを素直に、
「感動した。」
と応える。
ジョニーは、暗い海に向かって歩いて行く。
暗い海は、ジョニーの心象を隠喩している。
銃声の音が、暗い海に響き渡る。
確か、そんなストーリーだったと思う。
ジョニーは、戦争で人を殺した自分の演奏が、
人を感動させたことに、絶望したのだ。
人間性を失った音楽は、人を感動させないという、
自らの信念が崩れてしまったことに、
深い憤りを感じたのだ。
悪魔だと自ら信じていた自分の存在を、
天使だと称賛されたジョニーの苦悩。
その結末が、銃声に暗示されている。


達彦の心の闇に、光を照らそうとする桜子。
「戻らないこともあるんだね。」
諦めにも似た気持ちに、桜子もなりつつある。
情熱的で、意外に淡白な性格の桜子。
杏子(井川遥)は、優しく桜子を励ましていた。
日本婦人の母性愛のように。