小林秀雄の贈り物

外は、雷鳴がとどろいている。
雨が白く煙り、叩きつける。
台風の到来で、尋常でない空が広がっている。
天地が、確かに存在して、私達が、存在していることが、
リアルに思い知らされる。
自然への畏敬の念を新たにする。
そんな思いに囚われたとき、
小林秀雄の批評を読みたくなった。
特に、無常といふ事に収められた一連の批評、
「無常といふ事」「當麻」「平家物語」「西行」「実朝」「徒然草
「當麻」の一文の、傍線が引かれている箇所を引用してみる。


「解釈を拒絶して動じないものだけが美しい、
 これが宣長の抱いた一番強い思想だ。
 解釈だらけの現代には一番秘められた思想だ。」


毎日、嫌と言う程、マスコミから流される、様々な情報。
情報の風雨に晒されている私達。
解釈だらけの、世の中で動じない思想はあるのだろうか・・・
観念による抽象化は、現実を遠ざける。
テレビのブラウン管の向こうの世界を視ることで、
恰も、すべてを知ったような気分になる。
血の通った情報が、少なくなっている。
人々は、行間を読み取る工夫を怠っていまいか。
行間を読み取る訓練をすることで、知恵が生まれる。
一方的な情報の放流と、知識の氾濫。
知識は増すが、知恵は生まれない。
人の粗を暴くことに躍起になり、理解しようとはしなくなっていないか。
惻隠の情という大切な思いやりが消えてゆく。
そんな土壌になっていないか。


小林秀雄を読むと何故か心が落ち着く。
不思議と、澄んだ心持になる。
見守られているような安心感がある。
叱咤激励されている、そんな気持ちにさせてくれる。
小林秀雄の本は、私の人生の宝だ。
小林秀雄からの贈り物を大切にしたい。