映画芸術派


NHKのBS衛星映画劇場で、ルキノ・ヴィスコンティの特集が始まった。
今日は「夏の嵐」が放映された。
ルキーノ・ヴィスコンティは、貴族出身で、ココ・シャネルの紹介で、
映画の世界に入った監督だ。
彼の豪華にして絢爛たる映像は、シャネルに通じるものがある。
私は、ルキノ・ビスコンティミケランジェロ・アントニオーニ
そして、フェデリコ・フェリーニの映画が好きだ。
アメリカ映画にはない、繊細な心理描写と高い芸術性があるから。


ビスコンティの「夏の嵐」は、男女の愛憎を主調音に、
戦争の悲劇も描いている。
ビスコンティは第二次大戦の最中、
レジスタンス(抵抗運動)の活動をしていた。
この「夏の嵐」も、1866年イタリア独立運動渦中の、
ベネチアが舞台になっている。
伯爵夫人と若いオーストリア将校の、
愛と裏切りを中心にストーリーは展開する。
伯爵夫人を誘惑し、騙して大金を得た青年は、
兵役免除を金で買い、優雅に暮らす。
青年の純白の上着と、ライトブルーのズボンの軍服が美しい。
軍服が機能性より、美的シンボルとして存在している。


純粋ゆえに、気高さゆえに、愛人を許せない伯爵夫人。
優雅に暮らす青年の、心の闇。
一見、傲慢に見える青年の良心の疼き。
青年は、祖国オーストリアと兵士への裏切りに、自虐の念に苛まれていたのだ。
良心の呵責に苦しむ青年は、酒と薔薇の日々に身を費やす。
退廃の渦に巻き込まれ、もがく青年に心の安息はない。
最後は、伯爵夫人の密告で青年は銃殺になる。
ビスコンティ映画の様式美と退廃は、
貴族階級の滅びの美学でもある。
滅びゆく美しきものへのノスタルジー
「夏の嵐」は、映画芸術の本領が発揮された映画だった。