武蔵野深大寺


晩秋から初冬の季節、武蔵野を歩きたくなることがある。
気の向くまま、歩くのだ。
国木田独歩徳富蘆花の往時の武蔵野は、殆ど失せてしまったが、
深大寺周辺には、まだ武蔵野らしさが残っている。
雑木林や小川、畑と農家。


深大寺で、記憶に残る小説は、松本清張の「波の塔」だ。
青年検事の小野木と政治ブローカーの夫を持つ頼子が、
東京の郊外深大寺で逢引をする。
昭和30年代の小説なので、深大寺周辺は今より、
かなり田舎で、深閑としていたであろう。
古刹深大寺で、道ならぬ二人が、接吻する場面が印象的だった。
くちづけの後、頼子が小野木の唇に付いた口紅を、サッと拭く。
頼子の心遣いが、大人の女性らしく思えた。


深大寺は、神代植物公園が広々として気持ちが良い。
神代植物公園は、昭和36年に開園。
バラ園、ツツジ園、梅園など20以上のブロックの他、
植物会館や大温室もある。
植物公園正門前にとまると、大きな欅の木があり武蔵野らしい。
幹廻り三メートルにおよぶ巨木もある。


以前この正門前で、焼き芋を食べた。
焼き芋の袋は、定番の新聞紙だった。
新聞紙の袋から焼き芋のぬくもりが伝たわり、掌が暖かい。
空っ風が冷たかったが、甘くてホクホクした焼き芋が美味しかった。


園内では、季節の花や木々をスケッチしたり、
短歌や俳句を作っている人がいる。
確かに、自然豊かな園内は、俳句の吟行にはぴったりのスポットだ。
武蔵野らしいのは、公園の南部の端の「自然林」と呼ばれるところ。
アカマツクロマツ、杉、コナラなどが自然のままある。


また、水生植物園も立ち寄ると、様々な草木が見られる。
特に、花菖蒲の季節(6月中旬〜7月初旬)が良い。
更に、深大寺自然広場の、片栗の自生地も必見だろう。
早春には、紫斑のある薄緑の厚い二葉の間から、
薄紫の六弁花の片栗の花が咲き、可憐で愛らしい。


初冬の寒い中、深大寺そばに舌鼓を打つも良し、
甘酒に体を温めるも良しだ。
つれづれなるままに武蔵野を逍遥するひとときの、
自然との一体感を大切にしたい。


*先日、「もしもツアーズ」で深大寺を紹介していた。
 出演者は、キャイ〜ンウド鈴木天野ひろゆき坂下千里子関根勤、三瓶、
 ゲストは、大沢あかねだった。