白い薬指


マレーシアのぺナンから、茜と由貴はモーターボートで真砂の小島に渡った。
この島は、周囲が300メートル程の珊瑚の島。
どこまでも、紺碧の空とエメラルドグリーンの海が広がっている。
由貴と茜、ともにバツイチの女友達だ。


「由貴はバツイチの先輩だね。」
茜はいつも屈託がない。
そんな茜のきわどい言葉が、このビーチでは明るく響く。


由貴は、デッキチェアーで左手を太陽に翳している。
茜はそんな由貴の仕草を、不思議に思い、
「由貴、さっきから左手を挙げてどうしたの。」
と、由貴に問いかけた。
由貴は茜に左手を見せながら微笑み、
「ほら、わかる。」
と謎をかけた。


茜はしばらく、由貴の左手を見つめ、
薬指が白い輪になっていることに、気がついた。
それは、紛れもなくリングの痕。
茜には由貴の薬指の白い肌が、
少し生々しかった。


由貴は、歌うように答えた。
「私って案外律儀なの、あの人は、私のそんなところ分かってなかったみたい。」
由貴は一呼吸して、話を続けた。
「私あの人と別れて、一週間休みを取ったの、何していたか分かる茜。」
「何してたの。」と、茜。
「ずっと掃除してたんだ、あの人がいなくなった部屋。」
「掃除。」茜は由貴の顔を覗き込んだ。
「そう、ずっと掃除してたの、始めは頭の中が、思い出で一杯になったけど。」
「日が経つにつれて、なんとなく心が磨かれたようで、落ち着いたの。」
そう言って、再び、由貴は白い薬指を、紺碧の空に翳した。