女優魂


太地喜和子は、以前はあまり好きな女優ではなかった。
女であることの強烈な自意識に、男性である私が無意識に、
怖気ずいていたのかもしれない。
太地喜和子のような、業の強い女性が、苦手であった。
しかし、最近の私はむしろ太地喜和子のような女性に、
女の可愛さを見る思いがする。
清純派の女優にない、ある種の純粋なる魂。
奔放ゆえに孤独な心。
48歳で夭折した、人生を駆け抜けた女優であった。


さて、そんな太地喜和子のエピソードをたまたま読んだので紹介する。
近松心中物語』で太地喜和子は、平幹二郎と共演していた。
この芝居の、遊女梅川は、太地喜和子の当たり役であった。
ある日、裏方さんが、心中場面の前に通りかかると、
喜和子が洗面器に両手を浸していた。
それは、氷水だった。


喜和子曰く。
「雪の中の心中だから当然冷え切っているはず、
平さんが私の手を握ったときに、冷たい方が、
気持ちが通じるでしょ」
凄まじい太地喜和子の、女優魂を見る思いだ。


特に私が好きな言葉は、
『気持ちが通じる』という喜和子の言葉だ。
太地喜和子という女優は、恋愛も手を抜かない女性だった。