荒野の一輪


20代の頃、ある広告代理店の部長と知り合いになった。
その人は、お得意先の部長であった。
彼は大学の頃、ラグビー部でならし、
肩幅の広い、がっちりとした偉丈夫であった。
それでいて、背広に合わせた、
ポケットチーフをさりげなく入れ、身だしなみにも気を使う方だった。


彼は、やり手と評判だった。
そして、やり手ゆえに、悪い評判も流れていた。
会社の上層部に、いつも取り入って出世しているとか、
生え抜きでないのに、生意気だとか・・・・
彼は、他の会社からの転職された方と、聞いていた。
当時は、転職が、あまり社会的に認知をされていない時代。
一つの会社を、一筋に勤めるのが、サラリーマンの鏡だった。
私にとって、彼の存在は、雲の上の人とは行かないまでも、
部長であることから、気軽に話せる存在ではなかった。


ある日、私が俳句の結社に入っていると、部長に話すと、
興味をもたれたようで、
「俺も俳句を作ったんだけど見てくれる」
と、少し恥ずかしそうに、俳句を見せてくれた。
私は、彼の違った一面を見たようで、
親近感を持った覚えがある。
俳句は、けして上手とは言えなかったが、
素直な表現の俳句だったように記憶する。
ラガーらしい、真っ直ぐな俳句だった。


彼の心の荒野に咲く、一輪の花、
大切に愛しんでる花があるような、そんな気がした。