智恵子の碑


冬だというのにその日の九十九里は柔らかな小春日和だった。
かすかに潮の香りがした。
九十九里浜は人気もなく、
遠くで、黒いウエットスーツのサーファーが波乗りの準備をしていた。
荒らしい外房の波が胸に響く。
わたしはしばらく「浜辺の歌」を歌いながら砂浜を歩いていた。
そうだ、この海岸に智恵子の碑があるんじゃないか・・・
秘密の要塞のようなサンライズ九十九里の建物がある。
そのサンライズ九十九里の裏手まで歩くと、
高村光太郎の「千鳥と遊ぶ智恵子の碑」があった。
この碑を建てたころは、
眼前に九十九里の海が見えたのだろうが、
今は有料道路が建設されてしまい、
この碑から九十九里浜を一望することはできない。
それでも、智恵子さんは、波の音と潮の香りに包まれて、
いたずら好きの千鳥が止まったら、
「ちい、ちい、ちい」と二重奏(デュエット)しているのかもしれない。


昭和9年、詩人の高村光太郎は精神を病んだ智恵子夫人を、
九十九里町真亀納屋の「田村別荘」に転地療養させた。
現在の国民宿舎サンライズ九十九里の裏手に智恵子抄詩碑がある。