やさしい時間

その日九鬼は口開けの客だった。
九鬼はカウンターの席に着いた。
ママは観音様のようなふくよかな顔立ちで、
どこか客に安心感を与える女性だった。
九鬼にママが話しかけた。
「娘がね、今日家に寄ってね、昼寝していったのよ」
ママは嬉しそうに話して、
水割りを九鬼に差し出した。


ママの娘は立派なレディのはずだが、
親にとってはいつまでたっても子供は子供なのだろう。
それにしても昼寝とは可愛い御嬢さんだ。
昼寝をしている娘の顔をママは愛しく見ていたのかもしれない。
母と娘のやさしい時間。
そんなことを九鬼は思い浮かべていた。