命をかける・・・


彼のために小料理屋の個室を用意した。
彼とはじっくり話をしてみたいと思っていた。
彼は60代前半のエンジニア。
会社で設備のメンテナンスの責任者をしている。
長身で細身のダンディ。
趣味は少林寺拳法と日本舞踊、最近は料理に凝ってるそうだ。
最近は、赤ワインのビーフシチュウやドライカレー。
糠漬けも作っている。
自慢の手料理を奥さんや職場の仲間にもふるまっている。
そんな話をにこやかに話していた。


料理は、秋刀魚の刺身、鶏の岩塩焼き、生牡蠣、茄子の一本漬を肴に、
辛口の冷酒を飲んだ。
「今日はあなたが主客だ」
そう言ってお酒を注ぐと嬉しそうに彼は杯を開けていた。
秋刀魚の刺身は脂が乗って美味しかった。
鶏の岩塩焼きも、岩塩独特の風味があって乙な味。
舌鼓みを打ちながらいつしかお酒も進んでいた。


「これからも現場を守っていきましょう」
そう彼に話すと、
酔いが廻り、感情が高まったのか、
「現場を守るため命をかけます。」
との彼の発言。
「命をかけるか・・・」
とちょっと驚いた声で私が話すと、
「いや、命をかけるとは言いすぎました」
と照れ笑いをしていた。