かけ引き


九鬼は窓越しのツインビルを眺めながら、
コルトレーンのサックスを脳髄に流し込んでいた。
コルトレーンの「至上の愛」がスイングする。
外はいつしか琥珀色に染まっていた。
九鬼のグラスにも琥珀色の液体が注がれていた。


「その女性(ひと)はあなたとかけ引きをして楽しんでるのよ」
薄紅のドレスの女はそう言って、にっこりほほ笑んだ。
「かけ引きね・・・」
そう言って九鬼は少し遠くを見つめた。


九鬼は女に囁いた。
「俺は鮮やかなバラが好きなのさ」
女は少しあきれた顔でつぶやいた。
 「どこでも好きって言ってるんでしょ」
 「あなたってひとは」
屈託のない九鬼の笑顔をみるたび、女は軽く憎んでしまう。