割烹着の菩薩さま


九鬼は夢を見た。
波打ち際にいると急に波が高まってくる。
打ち寄せる度に高まる波。
岩場に逃げる九鬼。


ところが急に場面は町中になり、木造の建物を九鬼はよじ登る。
下を見ると道路は海水で覆われている。
九鬼はいつしか少年になっていた。


なんとか九鬼少年は必死によじ登り、
一番上の部屋までたどり着いた。
木製の粗末なドアがある。
ドアを開けると白い割烹着のおばさんが、
「大丈夫かい」
とやさしく声をかけてくれた。
白い割烹着のあばさんは、
まるで菩薩さまのようだと少年は思った。
「ここはどこなの」
と少年が問いかけると、
おばさんは微笑んで、
隣の部屋のドアを開ける。
そうすると5〜6人職工さんが美味しそうにおにぎりを食べている。
ランニング姿の職工さんがやさしげに見ている。
職工さんはお地蔵さんのようだと少年は思った。
「ありがとうとう」と言って少年はおばさんと職工さんと別れた。


そこで九鬼は目覚めた。
眼には涙があふれていた。