コクトーの海の響き

私の耳は貝の殻
海の響きを懐かしむ
ジャン・コクトー
堀口大學

巻貝を耳に当てると、遠い潮騒の響きが
聴こえてくることがある。
そして、その潮騒が、昔の、恋人の甘い囁きや、
母の子守唄に変わる。
コクトーは、自らの耳を貝の殻に喩える。
確かに、人の耳は巻貝に似ている。
私にとって、海の響きは、学生時代であり、
青春の日々なのかもしれない。
翻訳をした堀口大學は、齢(よわい)三歳のとき母を二十三歳で、
亡くしている。
幼くして母を失った堀口大學
母は二十三歳の若い母のまま、時間が止まってしまった。
堀口大學の「母よ」は、そんな彼の母への想いが迸る詩だ。


  「母よ」


  僕は尋ねる
  耳の奥に残るあなたの声を
  あなたが世に在られた最後の日
  幼い僕を呼ばれたであろうその声を
  三半器官よ
  耳の奥に住む巻貝よ
  母のいまはの
  その声を返せ


堀口にとっての、海の響きは、
幼き日に亡くした、母のいまはの声だったのかもしれない。
彼の耳は、母恋ふる貝となる。
亡き母への憧れが、
彼のポエジーを駆り立て、この詩を生んだのだろう。


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