絆が試されるとき


笛子(寺島しのぶ)は生徒達に、
「自分の心だけは裏切らないでください」
その言葉を残して学校を去る。
苗子は冬吾(西島秀俊)に会いに東京に行こうとするが、
すでに、桜子(宮崎あおい)の計らいで、冬吾は近くの
お社で、笛子を待っていた。
「学校やめちゃった」
と苗子は呟く。
「どんな気分だ」と冬吾は尋ねる。
「しぼんだ風船みたい」
「ただの女になったの」
と寂しげに話す苗子に冬吾は、
「へば、俺の嫁さになれ。杉冬吾の女房に」(それなら、俺のお嫁さんになれよ)
と優しく、プロポーズする。
「風船がふくらんだ」
と苗子は微笑み、冬吾の肩にもたれるのだった。
そして、苗子と冬吾の結婚式の当日、
桜子は、ピアノを売ることを家族に告げる。
「好きなピアノばかり齧りついているのが、人生ではない」
自分自身に、言い聞かせるように桜子は話す。
父と母の写真をピアノに掲げ、最後のピアノを弾く桜子。
桜散る中、有森家の人々は手放したピアノを見送る。
ひとり佇む、桜子に達彦(福士誠治)が声を掛ける。
「ピアノだけは、諦めるなよ有森」
涙ぐむ桜子。
「音楽は諦めるなよ」
「だって、おまえはピアノが好きなんだろ」
優しい達彦の言葉に、
涙に咽ぶ桜子。
そんな桜子の肩を優しく抱きしめる達彦だった。


軍国主義へと向かっていく時代。
個性より全体主義が重視された時勢に、
教師としての、苗子の主張は受け入れられないだろう。
しかし、逆説的なのは、男女の恋愛は引き裂かれそうに、
なればなるほど、燃え上がるところだ。
冬吾と苗子もしかりだ。
桜子に対する達彦の優しさは、
同じピアノを志した者ゆえに、きやすめではない。
達彦の、労わりの気持ちが伝わってくる。
冬吾、達彦の書生風の、着物姿が良く似合っていた。
また、背景のはらはらと散る桜も叙情的であった。
そして、いつもながら竹下景子のナレーションは、
柔らかな声で、朝の番組にふさわしい上品さを感じる。


*冬吾と達彦は、書生の風貌がある。
桜子や苗子の父源一郎役の三浦友和も、嘗て書生が板についていた。
三浦友和の、山口百恵と共演した「伊豆の踊り子」では、
実に、好青年の書生がはまり役であった。
源一郎の、娘二人が、冬吾と達彦といった、
父親に似た、書生風の男性に好意を抱いたのも、むべなるかなである。


*有森家の絆は、様々な困難にぶつかりながらも、
家族の絆と愛する人の優しさで乗り越えた、今回はそんなお話だった。



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