別れのコンチェルト


汽笛が鳴る。
汽車が動く。
桜子(宮崎あおい)の頬に達彦(福士誠治)が、
優しく触れる。
時が、一分一秒でも長ければと思う場面がある。
そんな恋人同士は、本来幸せなはずだ。
しかし、今日の桜子と達彦の別れは切なかった。
「有森頼みがあるんだ、桜子って呼んでいいか。」
と訊く達彦。
名字でなく、名前で呼ぶことは、愛する女性として、
桜子を愛したいという達彦の発露だ。
出征する達彦には、死と隣り合わせの現実がある。
だからこそ、ふたりの時間が大切なのだ。
歴史の大きなうねりの中では、
一人一人の人間の存在は小さい。
まして一組の男女の愛ならば・・・・・
ただ、そうした明日をもしれない愛だからこそ、
たまゆらの心のふれあいが、
痛みのまま胸の奥に、鮮やかに残るのだろう。
達彦は、婚約者桜子、母かね(戸田恵子)とふたりの女性の心に、
生き続けるだろう。
最後の語りで、
これが、ふたりの別れになったと、
桜子と達彦が、今生の別れになることを、暗示する。
時代は、大東亞戦争へ突入する。


*今回は、母と息子の別れでもあった。
達彦は優しい眼差しで、
「これが、最後の別れじゃないんだ」
とかねに語りかける。
かねは、達彦の胸にすがり咽び泣く。
大切に育てた息子を、戦地に送りだす母。
気丈な素振りを見せても、身を引き裂かれる思いだろう。
歴史の中で、幾度となく繰り返された悲しみである。



人気blogランキングへ