漱石の俳句


2006年11月14日の朝日新聞の「折々のうた」が印象に残った。
夏目漱石の俳句が掲載され、大岡信が解説している。


有る程の菊抛げ入れよ棺の中


「抛(な)げ入れよ」と言う命令形に託された漱石の激情。
あの冷静な漱石の風貌からは想像できない、
慟哭に揺れる心情俳句だ。
大岡信の解説によると、漱石が敬愛した唯一の女流作家といわれる、
早逝した、塚保楠緒子(くすおこ)に手向けた俳句だそうだ。
若くして亡くなったった楠緒子に、
ありったけの菊を投げ入れてくれと、漱石の魂の叫びが聞えてくるようだ。


夏目漱石の小説「それから」を何故か、この俳句から思い出した。
亡くなった楠緒子は、漱石の親友の美学者の細君だった。
楠緒子の御霊に捧げた、漱石の俳句の秘めた思いが、
小説「それから」の主人公の、親友の細君への思慕の念と、
私の中で二重写しになった。