開かれて吐息を洩らす櫻かな


大映映画、吉村公三郎監督の「夜の河」を観る。
1956年の映画。
妻子ある大学教授竹村幸雄(上原謙)と、
京染屋の娘きわ(山本富士子)との恋愛。
きわは、京都の老舗の、ろうけつ染めの職人。
竹村は、遺伝子学の研究家。


私は映画評論家、白井佳夫の解説の、テレビ東京「日本映画劇場」で、
この「夜の河」を始めて観た。
「夜の河」は、山本富士子が、女優開眼した映画。


特に、大学教授の上原謙と初めて結ばれるシーンの、
山本富士子は芳しい色香が漂う。
固い蕾が花開くような、山本富士子の演技が光る。
くちずけの後、吐息を洩らすのだが、艶のある声だなと思う。
あざとさのない、花のような声。
山本富士子が、しなやかな獣になる。


結ばれる前は「先生」と恋人を呼んでいたきわだが、
結ばれた後は、「あんた」と呼んでいた。


情事の後、上原謙演じる教授が煙草を燻らし、
なんとなく疲れた、虚無的な表情が、中年の男性らしい哀愁を漂わせていた。
逆に山本富士子演じる、きわが満たされた女の表情をしているのが、
対照的だ。
逢瀬を重ねるごとに、美しくなるきわ(山本富士子)。


山本富士子は、着物姿がよく似合う、日本美人。
一幅の日本画のようだ。
黒田清輝画伯の「湖畔」の夫人のようだ。
第一回ミス日本の美貌の女優。
ミスコンから誕生した、初代女優。


彼女の立居振る舞いも、見事だ。
たとえば、襖の開け閉めひとつにしても。
山本富士子は、花柳禄寿門下、花柳禄之助について、
日本舞踊を少女の頃から習っていた。


「夜の河」は、1956年、「キネマ旬報」第1位の作品。


上原謙は、原田知世主演の「時をかける少女」に出演している。
ちなみに、加山雄三の父親でもある、往年の二枚目スター。