本の衝撃


世にタレント本というものがある。
写真が多く、あまり文章の内容のない本の代名詞になっている感がある。
そんなタレント本のなかで、全く違った光彩を放った本がある。
山口百恵著の「蒼い時」と矢沢永吉著の「成りあがり」だ。
共通しているのは、作者の生い立ちが書かれていることだ。


百恵の本は、一人のこれから嫁ぐ女性として、
自らの20年を冷静に振り返り、様々なエピソードを綴っている。
百恵は、等身大の、21歳の女性としてこの本を書いていたと思う。
実をいえば、今、私の手元に「蒼い時」も「成りあがり」もない。
記憶のなかで、感想を述べているに過ぎない。


当時、同級生の女子大生に、かなり山口百恵の、
シンパがいたことを、思い出す。
私が、「蒼い時」を、貸して欲しいと言われ、
大学の女友達に貸したことがあった。
彼女は、律儀に感想文を書いてくれたが、
特に印象に残っているのが、
「蒼い時」に書かれている女性の性についての箇所を、
男性に読んで欲しくなかったと書かれていたことだ。
何か、彼女にとって「蒼い時」が、ひどく女性の秘密を白日に晒す、
文章に感じられたのかもしれない。


私にはむしろ、三浦友和との恋愛を父親に否定され、
憎しみを抱く彼女の、生の心情の方が衝撃的だった。
そして、そんな父を肉親である母が愛していることの現実。
子供として、父を許せないが、
女として父を愛する母を理解しかけている自分。
百恵と母と父との、血の絆。
そして愛憎。
そんな狭間で、揺れ動く百恵の心情をリアルに感じた。



矢沢永吉の「成りあがり」は、本宮ひろ志のマンガのヒーローのようで、
一気に読み終えた記憶がある。
ビッグに成ろうとする青年の生きざま。
BSエンターテイメント 尾崎豊15年目のアイラブユーを視て、
その繊細な魂の歌声に聴き入った。
矢沢永吉の骨太な生きざまと、尾崎豊の生き急ぐ、魂の彷徨。
そんな思いが、頭を過ぎった。


矢沢永吉の「成りあがり」からは、生活人矢沢が浮かび上がる。
自分の子供を、銭湯に連れて行く場面や、バランスのある金銭感覚など、
ロックンローラーyazawaと違った一面、生活者矢沢永吉がいる。
貧しい生い立ちから、一人の若者がロックミュージシャンとして、
成功するまでのサクセスストーリーが、書きなぐられている。


確かに、百恵の「蒼い時」は引退を控えた、彼女の締めくくりの意味があり、
矢沢の「成りあがり」は現在進行形の彼の姿を綴った、エッセイだった。


二つのエッセイは、十代の私にとって、かなりの衝撃力のある本だった。