春が来たら


女ひとりで、
薫は川釣りをしている。
もう一時間もピクリともしないヘラ鮒用の浮の棒。
日差しの温もりを感じる3月、だが川面を渡る風はまだまだ冷たい。
父譲りの紺のスタジャンを薫は羽織っている。
父のスタジャンは温かい。
薫は、
松たか子の「明日、春が来たら」を繰り返し聴いている。



明日、春が来たら、君に逢いにいこう・・か」


葦原から鷺が飛んでゆく。
青空に飛んでゆく白鷺を薫はいつまでも見つめていた。