2016-03-20 春が来たら ショートストーリ 女ひとりで、 薫は川釣りをしている。 もう一時間もピクリともしないヘラ鮒用の浮の棒。 日差しの温もりを感じる3月、だが川面を渡る風はまだまだ冷たい。 父譲りの紺のスタジャンを薫は羽織っている。 父のスタジャンは温かい。 薫は、 松たか子の「明日、春が来たら」を繰り返し聴いている。 「明日、春が来たら、君に逢いにいこう・・か」 葦原から鷺が飛んでゆく。 青空に飛んでゆく白鷺を薫はいつまでも見つめていた。