冬吾来たりて桜子目覚める

東京から冬吾(西島秀俊)が桜子(宮崎あおい)のもとに訪ねてくる。
桜子の心は乾ききっていた。
婚約者の達彦(福士誠治)が戦死し、義理の母のかね(戸田恵子)と
ふたりの愛する人が亡くなる。
砂漠のような桜子の心。
冬吾は、いつものように、あっけらかんと、
「腹へった、何か食わしてくれ。」
と桜子に言う。
桜子は、姉の笛子(寺島しのぶ)から冬吾へのはがきを偶然読んでしまう。
桜子は冬吾に、自分の思いの丈をぶつける。
「わたしの人生はどこにあるの。」
「何でいつもこうなの、好きな人がいつも死んじゃうの。」
「もうダメよ、音楽がなんだっちゅうの、もう何もやりたくない。」
冬吾は自暴自棄になっている、桜子に、
ショック療法を取る。
大切な楽譜を燃やして、川に投げ込む。
ばちぱち燃える楽譜。
「みんな焼いちまおうか、潔く。」
冬吾は次々に楽譜を焼いては、捨てる。
桜子は、流される楽譜を川に入り拾う。
「ひどいよ、冬吾さん。」
怒った眼差しの桜子に、冬吾は優しく語り掛ける。
「おかげで、大事なものがわかったべ。」
「わたしの人生は、ここにあるって、ちゃんとここにあるじゃない。」
「おまえは、強い強いおなごだ。」
冬吾の胸で泣く桜子。
そこには、心のカタストロフィーがあった。
自分の前から好きな人がいなくなる呪縛からの、解放があった。
「わたしには音楽がある。」
再び生きる目標に、目覚める桜子だった。
冬吾は、桜子の性格をよく見極め導いている。
それは、桜子の音楽への情熱を信頼しているからこそだろう。
昭和20年3月10日、10万人の死者を出した、未曾有の東京大空襲となる。